diary

傷ついたものは美味しい?

2021.7.05.mon

傷ついたものは美味しい?

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美味しいみかんは、虫にとっても美味しいんです。
青虫も蝶も蜂も美味しさを知っています。
なので蜂は、美味しいみかんの木を目指して蜜を集めに行きます。

その時に蜂の針がね、まだ若いみかんの実を傷つけてしまう。
みかんは傷がつくと高値で売れません。最悪捨てることになります。

でも、本当に美味しいみかんは、傷がついたみかん。
自然界に詳しい虫たちのお墨付きなんですよ。

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そんな話を、もう6年も一緒にやらせてもらっている和歌山の有田みかんの卸売会社さんからお聞きしました。


「へ〜〜え」


としか口から出ませんでした。
何も気の利いた返しができません。

私はただただ自然界の凄さに驚いていました。



それが冬のことでしたか。

春になる手前で、私は2本の柑橘の木を購入しました。

1本はトゲのないレモンの木。

もう1本は「はるか」という品種の柑橘の木。
はるかはレモンのような眩しい黄色の皮で、デコポンのように頭がぽこっとした形の実をつけます。

それから4ヵ月弱たった今、2本の木は花を咲かせ、実を結んでいます。

花が咲いた頃、たくさんの虫が蜜を吸いにやってきました。
お腹がふっくらしたアゲハチョウもやってきて、硬くてプツッとしたクリーム色の卵を産んだりもしました。
時間が経って、その卵は孵り、ウニョウニョした青虫が木を這うようになります。

2本の木の若い実を守るために、可哀想ですがウニョウニョ達にはポイっと庭の方に行ってもらいました。



ところが、です。

事件は起こりました。



実の成長を見に行ったところ、何者かに齧られた跡を発見。

やられました。
ウニョウニョが食べていたのです。
それは美味しそうに、ムシャムシャと。

穴からひょっこり顔を出すので、可愛いやら憎らしいやら。
そんな時、冒頭のみかん会社さんの言葉を思い出したのです。


「美味しいみかんは、虫にとっても美味しいんです。」


なるほどなるほど、うちの柑橘は美味しいんだね。
でも同時に、こうも思いました。


「でもこのことは、何人の人が知ってるの?」


私のようにスーパーでみかんを買う人は、このことを知りません。
知りませんので、みかんはツヤっとして傷がなくて色が鮮やかなものだと思っています。
「食品サンプル」のように、または「被写体モデル」のように美しいものがみかんだと思っています。

それは野菜にも魚介にも生肉にも、きっと同じことが言えるでしょう。


「自然界ってすごいんだね」「虫ってすごいんだね」


それだけでは商売は成り立ちません。


「無農薬がいいよね」「国産がいいよね」


それを実現するには、想像以上の労力と経験と資金が費やされています。
長くなりましたが、私はそのことを身をもって実感した、という話になります。

ウニョウニョした青虫が苦手ですが、私と夫でなんとか追っ払いました。
農薬を使うのは木が可哀想だし、自分的にも嫌だなと思ったからです。

青虫は1本の木に8匹くらい、いや、もっといると思います。
1本の木にこうなので、100本も500本も1000本もある果樹園や農家さんは…。
ご苦労を思うと頭が下がります。


「本当に美味しいみかんは、傷がついたみかん。」


このことがもっと広まればいいのに。
見た目が美しくても、それは本当にごく一部。
もっと美味しいみかんはその何倍も採れている。



そして、このことはデザインにも言えるなと、思います。

本当にいいデザインは、お客様の「苦労」や「努力」「傷」「挫折」も含んでいる、と。
その深みのような苦味のようなものも、私のようなデザイナーが昇華して含ませるものだと。

見た目だけ美しくても、いいデザインではない。
キレイに整っているだけのものは、いいデザインとは思わない。

お客様が紆余曲折を経て、熟成してきたものを入れてこそ。

「深み」「想い」「情熱」

これらを入れてこそ、魂のこもったいいデザインになると思っています。



ベランダにある2本の木を見ながら、そんなことをふと思った一日。

みかんもデザインも一緒です。

本当に美味しいものは、傷がついたもの。





fodesign 岡芹史子